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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)11号 判決 1976年3月29日

東京都荒川区南千住五丁目二一番二一号

原告

多田清治

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

松本津紀雄

東京都荒川区西日墓里六丁目七番二号

被告

荒川税務署長

右指定代理人

渡辺等

桜井卓哉

海老沢洋

今村泰男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が昭和四四年一二月二六日原告の昭和四二年分及び昭和四三年分所得税についてした各更正並びに各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

主文同旨の判決

第二、原告の請求原因

一、原告は、肩書地において手帳の表紙貼りを業とする白色申告者であるが、昭和四二年分及び昭和四三年分の所得税についてした確定申告及びこれに対して被告のした各更正(以下「本件各更正」という。)並びに各過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各決定」という。)の経緯は別表一記載のとおりである。

二、しかしながら、本件各更正は原告の所得金額を過大に認定した違法があり、したがつてこれを前提とした本件各決定も違法であるから、その取消しを求める。

第三、被告の答弁及び主張

一、原告の請求原因一の事実は認めるが、二の主張は争う。

二、本件更正は、次に述べるとおり違法である。

(一)  推計課税の必要性

被告所部の係官遠山虎男は、昭和四四年九月二六日本件各係争年分の所得税の調査のため原告方に臨店したが、原告は同係官の要請に対しても取引先名を明らかにせず、帳簿書類等について「帳簿は記帳していない。請求書や領収書等については未整理であるから提示できない。」と述べて、これを拒否した。同年一〇月一四日同係官が原告方に臨店して調査を始めたところ、荒川民主商工会会員ら六名が同係官を取り囲み、調査の目的、理由等を詰問する等して調査を妨害し、原告もこれに同調して調査に応じなかつた。

このように、原告は、所得金額の計算の基礎となる帳簿を備え付けておらず、かつ、取引の証拠書類は未整理を理由に提示せず、係官の調査に際しては荒川民主商工会会員らを立ち会わせて調査を拒否した。したがつて、被告としては、これ以上原告に対する調査を行つても実額により所得金額を算定することは不可能と認め、調査によつて判明した原告の収入金額を基礎として原告の所得金額を推計し、本件各更正をしたものである。

(二)  所得金額の算定

被告が本訴において主張する本件各係争年分の原告の事業所得の金額及びその計算の根拠は別表二、三記載のとおりである。

1 所得率

(1) 本件各係争年分の製本分の所得率各六八・九九%は、原告の納税地を管轄する荒川税務署並びに近隣の足立、王子、小石川、本郷、下谷、浅草、本所及び向島の各署の管内に住所を有し、製本業のうち、表紙貼りを営む個人事業経営者のうち、原告と事業規模が同程度(収入金額が一、〇〇〇、〇〇〇円超ないし六、〇〇〇、〇〇〇円未満)であり、かつ、青色申告をしている者の平均所得率である。その算出根拠は、別表四(1)(2)記載のとおりである。

(2) 昭和四二年分の運送分の所得率五五・五三%、昭和四三年分の同六〇・五四%は、原告の納税地を管轄する荒川税務署管内に住所を有し、一般貨物自動車運送業を営む個人事業経営者のうち、原告と事業規模が同程度(収入金額二、〇〇〇、〇〇〇円未満)であり、かつ、青色申告をしている者の平均所得率である。その算出根拠は、別表五(1)(2)記載のとおりである。

すなわち、原告は、主として手帳の表紙貼りを行う製本業者であるが、夏期は比較的受注が閑散な時期になるので、右期間中は主たる業務以外の業務を行つていた。本件各係争年分における右の閑散期間中は、運送業に類似する業務を行つていたが、仮に原告が年間を通じて右業務を営むとすれば、その収入金額は昭和四二年分はおおむね一、五〇〇、〇〇〇円程度、昭和四三年分はおおむね一、二〇〇、〇〇〇円程度となるから、右の同業者の平均所得率により運送分の所得金額を推計することは合理的である。

2 算出所得金額

算出所得金額は、本件各係争年分とも、製本分の収入金額に製本分の所得率を乗じて算出した金額と運送分の収入金額に運送分の所得率を乗じて算出した金額の合計金額である。

第四、被告の主張に対する原告の認否及び反論

一、被告主張の第三の二(一)の事実のうち、被告の係官が原告の在宅中二回臨店したこと、その際民主商工会の関係者数名が居合わせたことは認めるが、原告が調査を拒否したこと、係官を詰問する等調査を妨害したことは否認する。その余の事実は知らない。

同第三の二(二)の事実のうち、昭和四二年分については別表二記載の収入金額のうち製本分及び七月分の運送分の金額、特別経費のうち山口香代、羽鳥夏子に支払つた雇人費、地代、建物の減価償却費は認めるが、その余は争う。昭和四三年分については別表三記載の収入金額、特別経費のうち地代、支払利息、建物の減価償却費は認めるが、その余は争う。

二、次の理由により、同業者の平均所得率を用いて原告の算出所得金額を算定することは合理的でない。すなわち、

(一)  手帳の表紙貼りの事業については、作業場が狭く、かつ、路地の奥に位置しているため原材料、製品の運搬に人手を要し、自動式の機械を備え付けておらず、すべて手作業によつていたため、手帳のような小物の表紙貼りしかできず、しかも下請のみであるから、他の同業者に比較して著しく悪条件の下にある。

(二)  運送業は、手帳の表紙貼りの仕事がないときのアルバイトであつて、使用したトラツクは積載重量がわずか一トンの小型車であるから、同業者との比較は困難である。

三、原告の支出した雇人費は別表六記載のとおりである。多田あい(原告の母)、多田文子(原告の妹)、多田栄二(原告の弟)は、いずれも原告の親族であるが、原告とは別居し生計を一にしていなかつたから、原告がこれらの者に対し支払つた給与等は雇人費とみるべきである。

原告は、昭和四二年分の確定申告においてあいと文子を扶養親族、栄二を事業専従者とし、昭和四三年分の確定申告においてはあいを扶養親族、文子、栄二を事業専従者として申告したが、これは雇人費に計上できることを知らなかつたため申告を誤つたにすぎない。

四、原告は、本件各係争年分において訴外飯田善三から荒川区南千住五丁目二一番二一号のアパートを家賃年額一三二、〇〇〇円で賃借し原告の事実上の使用人である多田あい、文子、栄二を居住させ、事業の用に供していたから、右金額は特別経費に算入すべきである。

第五、原告の反論に対する被告の認否及び反論

一、第四の二の主張は争う。原告主張の各事情は、いずれも収入金額の多寡に影響を及ぼす要件ではあるが、収入金額一単位当りの所得金額を直接左右する要件ではない。

表紙貼り業については、自動式機械を使用する方が多くの経費を要するから、被告が採用した同業者の平均所得率算定の基礎となつた同業者に自動式機械を所有している者があるとすれば、この同業者の所得率は、主として手作業等による原告の所得率よりむしろ低率となるはずである。

次に運送業については、実重量単位当りの運賃は普通車よりも小型車の方が高額であり、また原告が使用した自動車は製本業に使用していたものであるから、当該自動車に係る固定経費は、製本業のうちに包含されているから、被告が採用した平均所得率は原告の運送収入に係る実際の所得率よりも低率であることは明らかである。

二、第四の三のうち、原告がその主張のように扶養親族、事業専従者の申告をしたことは認めるが、その余の主張は争う。原告と多田あい、文子、栄二は、いずれも原告と生計を一にする親族と認められるから、たとえ右三名に対して給与等の支払があつたとしても、右給与等の金額は必要経費には算入されない。

三、第四の四の主張は争う。多田あい、文子、栄二は原告と生計を一にする親族に該当するものであり、生計を一にする親族の居住のためアパートの家賃として支払つた金員は、原告の家事上の経費にすぎない。

仮に、原告が右アパートを事業用の材料置場として使用したことが認められるとしても、その部分は右アパートの総床面積一三畳のうち一・五畳であり、その使用期間は年間一二カ月(昭和四三年分については年間一一カ月)のうち七カ月程度であるから、事業所得の計算上必要経費に算入すべき賃借料の金額は、別表七記載のとおり、昭和四二年分八、八八四円、同四三年分九、六九一円にすぎない。

第六、証拠関係

一、原告

(一)  提出した甲号証

第一ないし第三号証

(二)  援用した証言等

証人飯田善三、同多田栄二及び多田文子の各証言並びに原告本人尋問の結果

(三)  乙号証の成立の認否

第一ないし第一〇号証の各一ないし三、第一一号証の成立は知らない。その余の乙号証の成立(第一五号証の二、三については原本の存在及び成立)は認める。

二、被告

(一)  提出した乙号証

第一ないし第一〇号証の各一ないし三、第一一号証、第一二、第一三号証の各一、二、第一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証の一ないし五及び第一七号証の一、二

(二)  援用した証言

証人遠山虎男、同三谷竜治、同大矢尚生、同箭内政昭、同中瀬古久二、同新井保夫及び同丸森三郎の各証言

(三)  甲号証の認否

甲号各証の成立は知らない。

理由

一、原告の請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二、そこで本件各更正に原告主張の違法があるかどうかについて判断する。

(一)  推計課税の必要性

証人遠山虎男の証言及び原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)によれば、

被告所部の係官遠山虎男は、本件各係争年分の所得税の調査のため、昭和四四年九月下旬原告方に臨店した。原告は同係官の質問に対し事業の内容、従業員等については答えたが、取引先名は明らかにせず、帳簿は記帳していないとして提示せず、また請求書、領収証は整理していないし、忙しいからこの次にしてくれと述べて同係官の要請に応じなかつた。同年一〇月中旬ないし下旬ごろ同係官が再び原告方へ臨店したところ(被告の係官が原告方へ二回臨店したことは、当事者間に争いがない。)、民主商工会の会員約六名が申告内容の個別的な誤りなど具体的調査理由を示すよう求め、あるいは事前通知のない限り調査には応じられない等と同係官を詰問し(その際民主商工会の関係者数名が居合わせたことは、当事者間に争いがない。)、原告も帳簿書類の提示の要求に応じないため調査することができなかつた。

右の事実が認められる。原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は遠山証人の証言と対比して採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、本件各係争年分の所得金額については、帳簿書類ないし原始記録が提示されず、これを実額により算定することは不可能であつたことは明らかであるから、被告が原告の取引先等の反面調査によつて把握した原告の収入金額を基礎に右各年分の所得金額を推計等により算定したことになんら違法はないといわなければならない。

(二)  所得の算定について

1  収入金額について

昭和四二年分の製本分の収入金額が一、九九二、二二五円であること、同年分の七月の運送分の収入金額が一二四、〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

証人丸森三郎の証言により真正に成立したと認められる乙第一一号証及び右証言によれば同年八月の運送分の収入金額は一三九、一八〇円であることが認められる(なお、右証言によれば、乙第一一号証中手数料名義の金額は、ガソリン代その他丸公運輸有限会社が原告のため立替えた金額であるから、収入金額に含めるべきものであること明らかである。)。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると、同年分の運送分の収入金額の合計は二六三、一八〇円と認められる。

昭和四三年分の収入金額のうち製本分の金額が三、三八八、九五四円、運送分の金額が九九、〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

2  所得率について

イ 製本分の所得率

証人三谷竜治の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の一ないし三、証人大矢尚生の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証の一ないし三、証人箭内政昭の証言により真正に成立したと認められる乙第六号証の一ないし三、証人中瀬古久二の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証の一ないし三及び右各証言を合わせると、

東京国税局長は、昭和四七年五月一九日付で原告の納税地を管轄する荒川税務署に近接する小石川、本郷、下谷、向島の各署の管内に住所を有し、製本業のうち表紙貼りを営む個人事業経営者のうち、本件各係争年分の所得税について青色申告をしているもので、(1)暦年事業を継続し、かつ、有資格のもの(年の中途において転業したもの、他の業種目の営業を兼業しているもの、収入金額が六、〇〇〇、〇〇〇円以上のもの及び一、〇〇〇、〇〇〇円以下のものを除く。)、(2)申告是認、更正等を行つたもの(不服申立期間を経過していないもの、不服申立てをし審理中のもの、訴訟係属中のものを除く。)全員の右各年分の収入金額、売上原価、差益金額、差益率、所得率等につき報告するよう求めたこと、右の調査結果は別表四(1)(2)記載のとおりであり、原告と同様表紙貼りを専業とする者は右各年分とも同表の記号「ア」ないし「ケ」に掲げる者であつて、その平均所得率は昭和四二年分六九・四五パーセント、同四三年分六九・一九パーセントであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、平均所得率算出の対象となつた同業者は原告とほぼ同規模で、原告と近接する税務署管内に事業所を有する同業者であり、同業者の抽出基準に合理性があり、その抽出について恣意の介在する余地はなく、かつ、右の調査は青色申告書に基づいており、前示の特殊事情のある者を除く同業者を対象としているから、このような同業者の平均所得率は、正確性及び一応の普遍性が担保されているというべきである。したがつて、右同業者の平均所得率を基礎に原告の所得を推計することは合理的というべきである。

原告は、同業者の平均所得率を原告に適用することは合理的でないと主張し、(1)原告の作業場が狭く、路地の奥に位置しているため原材料、製品の運搬に人手を要すること、(2)自動式の機械を備え付けていないこと、(3)下請のみであることを挙げる。

しかしながら、右(1)(2)の事情は特段に所得率を低下させる原因とは認め難いうえ、仮にこれらの事情が所得率に影響するとしても前記同業者の平均所得率の中に捨象されているというべきである。また(3)については、三谷証人の証言によっても原告のような業態の業者は下請が多いことがうかがわれるから、これまた前記同業者の平均所得率の中に捨象されているというべきである。他に右推計を不合理ならしめる特殊事情につき主張立証はない。したがつて原告の右主張は理由がない。

ロ 運送分の所得率

証人新井保夫の証言により真正に成立したと認められる乙第一〇号証の一ないし三に右証言を合わせると、

東京国税局長は、昭和四七年五月一九日付で原告の納税地を管轄する荒川税務署管内で一般貨物自動車運送業を営む個人事業者のうち、本件各係争年分の所得税について青色申告をしているもので、(1)暦年事業を継続し、かつ、有資格のもの(年の中途において転業したもの、他の業種目の営業を兼業しているもの、収入金額が二、〇〇〇、〇〇〇円以上のものを除く。)、(2)申告是認、更正等を行つたもの(不服申立期間を経過していないもの、不服申立てをし審理中のもの、訴訟係属中のものを除く。)全員の右各年分の収入金額、売上原価、差益金額、差益率、所得率等につき報告するよう求めたこと、右の調査結果は別表五記載のとおりであつて、右同業者の使用している自動車は小型自動車であること、その平均所得率は昭和四二年分五五・五三パーセント、昭和四三年分六〇・五四パーセントであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、平均所得率算出の対象となつた同業者は原告がもし年間を通じて運送業を営むならば、ほぼ同規模のもので、かつ、原告と同様荒川区に事業所を有する者であること、同業者の抽出基準に合理性があり、その抽出について恣意の介在する余地はなく、かつ、右の調査は青色申告書に基づいており、前示の特殊事情のある者を除く同業者を対象としているから、このような同業者の平均所得率は、正確性及び一応の普遍性が担保されているというべきである。したがつて、右同業者の平均所得率を基礎に原告の運送分の所得を推計することは合理的というべきである。

原告は、手帳の表紙貼りの仕事がないときのアルバイトとして運送を行つたにすぎず、使用したトラックも小型車であるから、同業者の平均所得率により運送分の所得金額を推計することは合理的でないと主張する。

しかしながら、丸森証人の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告の運送分の収入は、表紙貼りの業務の閑散期にそれに使用している小型自動車を用いて継続的に運送を請負い、得たものであることが認められるから、従事期間が短いとはいえ、製本業に附随して行つた事業と認めて妨げない。また前記同業者の使用している自動車も小型自動車であること前認定のとおりであり、原告の自動車に係る減価償却費等の固定経費は製本業のそれに包含されているというべきであるから、同業者の平均所得率を適用して算出所得金額を算出することは原告に不利益を与えるものとは認め難い。他に右推計を不合理ならしめる特殊事情につき主張立証はない。したがつて、原告の右主張は理由がない。

3  算出所得金額

本件各係争年分の製本分・運送分の各収入金額に前認定の各平均所得率を乗ずるとそれぞれの算出所得金額は別表八記載のとおりとなる。

4  特別経費

イ 雇人費

(山口香代、羽鳥夏子分)

昭和四二年に同女らに計二八八、〇〇〇円を雇人費として支出したことは、当事者間に争いがない。昭和四三年分について、被告は二八八、〇〇〇円と、原告は三六〇、〇〇〇円と各主張しているので、被告主張の限度では、当事者間に争いがない。この点について原告本人はアルバイトの女性には昭和四二年には日当八〇〇円、同四三年には日当一〇〇〇円を支払った旨供述するけれども、遠山証人の証言と対比して採用し難く、他に原告本人の右供述を裏付ける証拠はない。してみると、昭和四三年分について二八八、〇〇〇円以上支出した事実を認めることはできない。

(多田あい、文子、栄二分)

証人多田栄二の証言により真正に成立したと認める甲第一号証、証人多田文子の証言により真正に成立したと認める甲第二号証及び右各証言並びに原告本人尋問の結果には、原告方では原告の母あい、妹文子、弟栄二も製本の事業に、栄二は運送の事業にも従事し、原告から給料を支給されていた旨の記載、証言ないし供述がある。

原告は、これらの者は原告と生計を一にしない親族であるから原告の使用人に該当し、使用人に対して支払つた給料は原告の事業所得の金額の計算上雇人費に該当すると主張する。

事業に従事する親族に支払つた金員を必要経費として収入金額から控除するためには、右親族が原告と生計を一にしていないことが必要である。(所得税法第五六条参照)そこで、原告と多田あい、文子、栄二が生計を一にする親族と認められるかどうかについて判断する。

成立に争いのない乙第一二、一三号証の各一、二、第一四号証、証人飯田善三の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証に証人飯田善三、同多田栄二及び同多田文子の各証言並びに原告本人尋問の結果(証人多田栄二、同多田文子の各証言及び原告本人尋問の結果中後記採用しない部分を除く。)を合わせると、多田あい、文子、栄二はかねてから原告と同居し、原告がその生活費を負担していたのであるが、原告は昭和四一年三月飯田善三から原告方の裏約一〇メートル位の至近距離にあるアパートを賃借し、あい、文子、栄二は同所で寝泊りし原告方の作業場へ通い、もつぱら原告の営む事業に従事していたこと、しかし、同女らは昭和四三年一一月同所を引き払い再び原告と同居し以後も原告の負担において生活していること、住民票においては原告が世帯主であり同女らは原告の世帯員となつていること、原告は同女らに対する給料について給与所得としての源泉徴収をしていないこと、原告は昭和四二年分の確定申告においてはあい、文子を扶養親族として、栄二を事業専従者として、また昭和四三年分の確定申告においてはあいを扶養親族として、文子、栄二を事業専従者として申告していたこと(右の申告の事実は、当事者間に争いがない。)が認められ、遠山証人の証言によれば、本件更正の調査の際多田あい、文子、栄二の雇人費については原告から何の申立てもなかつたことが認められる。

右認定の事実を合わせると、多田あい、文子、栄二は右アパートに居住していた期間も原告と生計を一にしていたと認めるのが相当であり、証人多田栄二、同多田文子の各証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、原告があい、文子、栄二に対しその主張のような給料を支給していたとしても、これを雇人費とし算出所得金額から控除することはできないといわなければならない。

ロ 地代等

昭和四二年分の地代、建物の減価償却費の額、昭和四三年分の地代、支払利息、建物の減価償却費の額については、当事者間に争いがない。

ハ 支払家賃

原告は、昭和四二年一月から同四三年一一月まで飯田善三からアパートを賃借し、本件各係争年分に各一三二、〇〇〇円の家賃を支払ったから、右は支払家賃として算出所得金額から控除さるべきである旨主張する。

前掲甲第三号証及び飯田証人の証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四二年一月ないし一二月分、翌四三年一月ないし一一月分として各一三二、〇〇〇円の家賃を支払ったことが認められる。そして原告と多田あい、文子、栄二は生計を一にする親族であつて使用人とは認められないことは前認定のとおりであるが、原告本人尋問の結果によれば、右アパートの土間の一部を製品、材料置場として利用していた事実が認められるから、その利用部分に対応する家賃は必要経費とし、その余は原告の家事上の経費の支出と認定するのが相当である。

原告本人尋問の結果によれば、右アパートは七畳位の部屋、三畳位の土間、三畳位の勝手場、便所から成り(合計約一三畳)、土間の半分(約一・五畳)を製品、材料置場として使用したこと、使用期間は年間のうち六、七カ月程度であることが認められるから、賃料各一三二、〇〇〇円に使用面積の割合一三分の一・五及び使用期間の割合一二分の七(昭和四三年分については一一分の七)を乗ずると、必要経費に算入すべき支払家賃の額は昭和四二年分八、八八四円、昭和四三年分九、六九二円となる。

そうすると、特別経費の合計額は、昭和四二年分三三七、五二〇円、昭和四三年分三五六、七二八円となる。

5  事業専従者控除

4のイの認定によれば、多田あい、文子、栄二は原告と生計を一にする親族であるとともにもつぱら原告の営む事業所得を生ずべき事業に従事していたから、事業専従者と認めるべきであるが、前掲乙第一二、一三号証の各一、二によれば、本件各係争年分とも原告は確定申告書に事業専従者控除分として各三〇〇、〇〇〇円を計上していたから、右の限度で必要経費とみなされるものというべきである(所得税法第五七条第三項、第五項)。

6  所得金額

そうすると、右各年分の算出所得金額(別表八)から前示の特別経費及び事業専従者控除分を差し引くと、所得金額は昭和四二年分八九二、二二三円、昭和四三年分一、七四八、〇二三円となり、いずれも本件各更正に係る所得金額を上廻るから、所得金額の認定について違法はなく、したがつて本件各決定にも違法はないといわなければならない。

三、よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 時岡泰 裁判官 山崎敏充)

別表一

<省略>

別表二

昭和四二年分

<省略>

別表三

昭和四三年分

<省略>

別表四

(1) 昭和四二年分

<省略>

(2) 昭和四三年分

<省略>

別表五

(1) 昭和四二年分

<省略>

(2) 昭和四三年分

<省略>

別表六

<省略>

別表七

<省略>

別表八

<省略>

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